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なるとひちょう

鳴門秘帖

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 56,957 字 · 114 頁

青空文庫

望みにまかせて剣山へ連れて行ってやる、わざわざ迎えにきてやったのだ、神妙にしろよ」

こういい渡すと左右にいた原士が、バラリッと二人の前へ縄を解いた。万吉は飛びすさってお綱の身をかばったが、わざとおののく様子をみせて、

「な、何をなさいますんで――ちっともわけが分りません、私どもは商用がてら御岳詣りをしてきた帰りの者で、お言葉のような者ではございません。お人違いじゃございませぬか」

「その白をきる面が、なんで今向うの高札の前にあんな様子をして立ちすくんでいたか。貴様たちをはじめ法月弦之丞が、この木曾街道へかかることを承知して、罠を掛けて待っていたのだ。その逃げ口上は通用せぬ」

「どうおっしゃいましても、そんな者でないことにはしかたがございません、へい、私は今も申し上げた通りの旅商人、これは妹の……」あくまでも言いのがれてみようと必死の弁をふるっていると、向うの空茶店の蔭から、頭から褄先まで真っ黒に着流したひとりの浪人者、ふところ手をしてそれへ出てきながら、

「よせよ、万吉」

と、せせら笑いをうかべて側に立った。

ひょいと見ると、青白い夕月をうけて頭巾の顔――意外やお十夜孫兵衛だ。