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おうがいのおもいで
鴎外の思い出
小金井 喜美子
線上閱讀小金井 喜美子《鴎外の思い出(おうがいのおもいで)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 127,675 字 · 254 頁
お体が小さいので、馬丁が扉を開けてから、お下りにならなければお姿は見えません。往来の人は空馬車が走ると思っていたといいます。
始めて伺った時には、前日お客来だったそうで、床の間に皇后陛下(後の昭憲皇太后)のお短冊が掛軸になって掛っていました。赤地に金箔を置いた短冊に、美しいお字で書かれていました。早速写しとりましたが、幾年か立つ内にその手帳を失い、お歌も忘れました。
広いお座敷の襖が黒塗の縁で、浅葱色の大きな紋形がぽつぽつあるのを、芝居で見る御殿のようだと思いました。お庭は広く、立樹も多くて、六番町の化物屋敷と人はいいました。きっと荒れた邸をお買いになったのでしょう。曲りくねったお廊下などがあって、隠れん坊をするに好いのです。小さいお嬢さんと夢中になって遊んでいると、お祖母様に叱られます。
「今日はお習字だよ」と仰しゃると、墨を磨るお手伝をします。毛氈を敷き、太い筆を執っていろいろお書きになる時には、きっと一、二枚はいただきました。或人が、いただいたお短冊が百枚になったからと、それを版にしたのを幾冊か持って来たことがあり、その一冊もいただきましたが焼きました。