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おうがいのおもいで

鴎外の思い出

小金井 喜美子

線上閱讀小金井 喜美子《鴎外の思い出(おうがいのおもいで)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 127,675 字 · 254 頁

青空文庫

と赤い紙に書いたのが、電話器の下の柱に貼られたようでした。ですから時に番号が変りでもしますと、それはそれは苦い顔をなさいました。

いつでしたか、夜分になって尋ねましたら、お嫂さんはお留守です。まだ小さかった類さんは病気で寝ていました。ちょっと話していますと、電話のベルが頻りに鳴ります。女中が出ますと長距離らしいのです。取次いでも、兄は頭を振るだけで、出ようとなさいません。行合せた私が出て見ましたが、よその家のことですから、はっきりしたことはいわれません。「どうしましょう」と伺いますと、「捨てておけ」とおっしゃいます。電話はいよいよ鳴ります。その頃いたつるという若い女が出て、何とかいって切ったようでした。お嫂さんはどこかへお出かけで、その晩はお帰りにならないのですが、さすがに類さんが心懸りで、様子を問おうとせられた電話なのでした。そんなことはよくあるのだそうで、何だかお気の毒で、早々にお暇しましたが、帰りしなに勝手へ出て女中に聞きましたら、「行くなとおっしゃるのに、お出かけになったのです」と、女中も不服そうでした。類さんは熱があるらしく、その枕元で兄の何かと慰めてお出の声が聞えます。