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おうがいのおもいで

鴎外の思い出

小金井 喜美子

線上閱讀小金井 喜美子《鴎外の思い出(おうがいのおもいで)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 127,675 字 · 254 頁

青空文庫

少しは廻っても、外に道はなかろうかといいましても、人力車の通う道はないのです。

野菜は時節に依っていろいろと違いますけれど、何はどこの家と大抵は極っていたようです。時には灯が附いてから人の集まることもあります。新蓮根の出始めなど、青々した葉の上に、白く美しい根を拡げたのが灯に映えて綺麗ですが、それは一、二軒だけです。

野菜をせるのはなかなか威勢のよいものです。四斗樽ようの物を伏せた上に筆を耳に挟んだ人が乗って、何か高声に叫びますと、皆そこへ集まって来ます。それからは符牒でしょう、何か互にいい合って、手間の取れることなどもありますが、極まりが附いて皆がそこを離れるころには、また別の方で呼立てます。天気の時は大抵軒下でしますが、雨が降るとどやどやと這入りますから、広い三和土も一杯です。朝の市が済んで、そこらを掃上げて、静かになってから、人々は朝餉を取るのでしょう、出て来た人たちを相手のちょっとした食事の出来る店もあります。腰を掛けて休む店も幾軒かありますが、それは市場を離れて大橋へ行く道の後を田圃にした辺にあって、並べた菓子類などが外から見えます。そうした家では、どこでも毬餅とか、新粉の餅に餡を包んで、赤や青の色を附けたのを糯米にまぶして蒸したもので、その形から名附けたのでしょう。