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きりん
麒麟
谷崎 潤一郎
線上閱讀谷崎 潤一郎《麒麟(きりん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 9,040 字 · 18 頁
南に面する錦繍の帷の奥には、僅に夫人の繍履がほの見えた。夫人が項を下げて一行の礼に答うる時、頸飾の歩揺と腕環の瓔珞の珠の、相搏つ響が聞えた。
「この衛の国を訪れて、妾の顔を見た人は、誰も彼も『夫人のは妲妃に似て居る。夫人の目は褒に似て居る。』と云って驚かぬ者はない。先生が真の聖人であるならば、三王五帝の古から、妾より美しい女が地上に居たかどうかを、妾に教えては呉れまいか。」
こう云って、夫人は帷を排して晴れやかに笑いながら、一行を膝近く招いた。鳳凰の冠を戴き、黄金の釵、玳瑁の笄を挿して、鱗衣霓裳を纒った南子の笑顔は、日輪の輝く如くであった。
「私は高い徳を持った人の事を聞いて居ります。しかし、美しい顔を持った人の事を知りませぬ。」
と孔子が云った。そうして南子が再び尋ねるには、
「妾は世の中の不思議なもの、珍らしいものを集めて居る。妾の廩には大屈の金もある。垂棘の玉もある。妾の庭には僂句の亀も居る。崑崙の鶴も居る。けれども妾はまだ、聖人の生れる時に現れた麒麟と云うものを見た事がない。また聖人の胸にあると云う、七つの竅を見た事がない。先生がまことの聖人であるならば、妾に其れを見せてはくれまいか。