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「こくしかんさつじんじけん」ちょしゃのじょ
「黒死館殺人事件」著者之序
小栗 虫太郎
線上閱讀小栗 虫太郎《「黒死館殺人事件」著者之序(「こくしかんさつじんじけん」ちょしゃのじょ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 1,064 字 · 3 頁
勿論、主題はゲーテの「ファウスト」であるが、大体私の奇癖として、なにか一つでも視覚的な情景があると、書き出しや結末が、労せずに泛んで来るのだ。それが本篇では、第三篇中の山場――すなわち、吹雪の夜に墓窖を訪れる場面に当るのである。それ故、黒死館の着想を、「モッツァルトの埋葬」から得たと云っても、過言ではないと思う。
楽聖モッツァルトの埋葬は、霙を交えた北風の吹き荒む、十二月の空の下に行われた。しかし、その葬儀に列なったものは、宮廷合唱長のアントニオ・サリエリー、友人ジュスマイエルほか四人に過ぎなかったが、柩が墓地門に着いた頃は、それ等の人も一人去り二人去りして、残ったのは、僅かに柩車を駆る馭者一人のみ。また、それを迎えたのも、穴掘ハルシュカ一人だったと云う、まさに、芸術史上空前の悲惨事なのであった。それ故、モッツァルトの死が、私に「黒死館」を齎らしたとも云える訳である。なお終りに、本篇の上梓に際し、江戸川・甲賀の両氏から序文を賜わったことと、更に、松野氏の装釘に対する苦心――探偵小説としては、恐らく空前の豪華版であろうが――以上の三氏には、衷心から感謝の意を表したいと思う。