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くろゆり

黒百合

泉 鏡花

線上閱讀泉 鏡花《黒百合(くろゆり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 78,148 字 · 154 頁

青空文庫

壁に五段ばかり棚を釣って、重ね、重ね、重ねてあるのは、不残種類の違った植物の標本で、中には壜に密閉してあるのも見える。山、池、野原、川岸、土堤、寺、宮の境内、産地々々の幻をこの一室に籠めて物凄くも感じらるる。正面には、紫の房々とした葡萄の房を描いて、光線を配らった、そこにばかり日の影が射して、明るいようで鮮かな、露垂るばかりの一面の額、ならべて壁に懸けた標本の中なる一輪の牡丹の紅は、色はまだ褪せ果てぬが、かえって絵のように見えて、薄暗い中へ衝と入った主の姫が、白と紫を襲ねた姿は、一種言うべからざる色彩があった。

「道、」

「は、」と、答をし、大人しやかな小間使は、今座に直った勇美子と対向に、紅革の蒲団を直して、

「千破矢様の若様、さあ、どうぞ。」

帽子も着たままで沓脱に突立ってた滝太郎は、突然縁に懸けて後ざまに手を着いたが、不思議に鳥の鳴く音がしたので、驚いて目をって、また掌でその縁の板の合せ目を圧えてみた。

「何だい、鳴るじゃあないか、きゅうきゅういってやがら、おや、可訝いな。」

「お縁側が昔のままでございますから、旧は好事でこんなに仕懸けました。鶯張と申すのでございますよ。