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たんげさぜん
丹下左膳
林 不忘
Read 丹下左膳 (たんげさぜん) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 340,187 characters · 666 screens
それを左右に払いつつ、左膳は戸口を背に一歩一歩さがってゆく。
せまい庵内なればこそ、八転四通の左膳の剣自由ならず、道場の屋根の下に慣れた栄三郎も五分五分に往けるのだが、一度野天に放したが最後、地物に拠り、加勢をあつめ、奔逸の剣手鬼神の働きを増すことは知れている。ことに戸外では、泰軒が多勢を相手に悪戦しているのだ。そこへ左膳を送り、自分が出て行けば、泰軒とともに苦境におちることは眼に見えてあきらかだ。
なんとかして室内にくいとめておかねば――と栄三郎が右からまわって退路を絶とうとしたとき、左膳の左手がビク! と動いたと見るやはや乾雲風を裂いて飛躍しきたったので、突っ離すつもりで身をひいたとたん、土間に降りた足音がして、六尺棒のような左膳の身体がスルスルと戸ぐちをすべり出た。
その出たところを泰軒が見たのだった。
泰軒は、ちらと一瞥をくれた……だけだったが、その間隙が期せずして源十郎に機会を与えて、泥を飛ばして踏みこんだ鈴川源十郎、流光雨中に尾をえがいて振りおろした――。
のはいいが。
あいだに張り出た立ち樹の枝に触れて、くだかれた木肌や葉が、露を乱してバラバラッ! と散り飛ぶのをいちはやくそれと感知して、泰軒、身を低めて背えに退いたから源十郎はすんでのことでわれと吾が足を愛刀の鋩子にかけるところだった。