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きせつのないまち
季節のない街
山本 周五郎
Read 季節のない街 (きせつのないまち) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 201,379 characters · 394 screens
「じゃあ近いうちに」と島さんは云った、「こんどはビールで盛大にやるよ」
だが、盛大なビールの宴は実現しなかった。島さんは勤勉に興信所へかよい、人に会うと明朗に笑い、誰とでも気軽に立ち話をした。けれども、隣りの富川さんですら、茶をのみにいちど呼ばれたためしもなかった。
島さんの妻は、相変らず近所づきあいをせず、外で誰に会っても知らん顔をしていた。尤も、高ぶっているとか、相手を軽蔑しているとかいうのではなく、つめたいとさえも感じられないほどの無関心――空の雲ゆきについて犬が無関心であるような無関心を示すだけ、と云うようであった。
近所の細君たちは、彼女のことを「奥さん」と呼んでいた。この種の「街」で奥さんというのは、例外なしに蔑称であることが共通しているし、またしばしば「おきちさん」というのも同意語で、それはどこか尋常でないもの、きちがいじみているもの、という意味をあらわしていた。
「おどろいたよ、あたしは」とかみさんの一人が云う、「島さんちじゃあ島さんが煮炊きして、あの奥さんはそれをふところ手で眺めてるよ、あんな夫婦ってあるかしら」
「徳さんの話だけどね」