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ゆしまもうで
湯島詣
泉 鏡花
Read 湯島詣 (ゆしまもうで) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 62,004 characters · 122 screens
堕胎をしたものは刑法の罪人だといえば、何の事かもとより分らず、お前巡査に捕って牢へ入れられなけりゃならないといえば、また二十五座へ遁込んで躍るというであろう、手のつけられたものではない。
さまでに世の中の事というものが分らない生立が、馴染むに従って知れれば知れるほど、梓は愛憐の情の深きを加えた。
さらぬだに蝶吉は恩人である。殊に懐旧の情に堪えざる湯島の記念がある上に、今はある者は死し、ある者は行方の知れない、もの心を覚えてから、可懐しい、恋しい、いとおしい、嬉しい情を支配された、従姉妹や姉に対するすべての思を、境遇の斉しい一個蝶吉の上に綜合して、その情の焦点を聚めているのであるから身にかえても不便でならぬ。
まして打明けた蝶吉の身の上を悉しく知ってからは、謂うべからざる同情の感に打たれたのである。
梓は何となくよく似た身の上だと思った。
蝶吉の母親は旧京都のしかるべき商賈の娘であったが、よくある、浄瑠璃の文句にある、親々の思いも寄らぬ夫定めで、言い交した土佐の浪人とまだ江戸である頃遁げて来た。二人で根岸に隠れている中、時世といい、活計を失って、仲之町の歌妓となった、且つ勤め、且つ夫に情を立てて、根岸に通っている内に、蝶吉は出来たので。