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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
Read 花と龍 (はなとりゅう) by 火野 葦平 (ひのあしへい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 410,131 characters · 824 screens
一段と、声を張りあげた。
「おごめん。誰も、居らんとですか?」
その声で、裏の小屋でワラジを編んでいたマンが、出て来た。
「なんぞ、御用で?」
「玉井金五郎さんは、居りませんか?」
「いません。お昼すぎに、若い衆と、花見に行ったきり、まだ帰りません」
「あんたは、ごりょんさんですか」
「ええ」
「そんなら、あんたでも、よかろう。これを、江崎親分からことづかって来ました」
俥ひきは、腹がけの丼から、一通の封書をとりだした。マンに、渡した。
受けとって、
「返事が要るとですか?」
「はあ、返事を貰うて来い、といわれました」
「それでは、いま、見ますけ……」
マンは、封を切った。
奉書の巻紙に、なぐり書きのような太い筆で――「前略四月八日、午前零時、貴殿宅へ、ナグリコミヲ掛ケル所存ニ付、左様、承知下サイ。江崎満吉ヨリ」
マンの顔から、血の気が引いた。かすかに、動悸が打って来た。唇を、ぎゅっと噛んだ。
しかし、表面は落ちついた様子で、
「わかりました――と、江崎親分にお伝え下さい」
と、いった。
「そんなら」
そういって、出ようとするのを、
「あ、俥屋さん」
と、マンは、呼び止めた。