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ちまんだらしちょうぶし
血曼陀羅紙帳武士
国枝 史郎
Read 血曼陀羅紙帳武士 (ちまんだらしちょうぶし) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 88,970 characters · 176 screens
おお、お父様お父様、正気づかれてくださいまし!」
と叫び、老人の刀持つ手に取り縋った。栞であった。しかし老人は、
「娘か、用心おし! 来栖勘兵衛が、わしを殺しに来たぞよ! そこに勘兵衛がいる!」
と叫び、尚、車を進めようと、片手の棒で、地上を漕ごうとするのであった。
「いえいえお父様、あのお方は来栖勘兵衛ではございません。よくご覧なさいまし、お年が違います。勘兵衛より、ずっとお若うございます」
こう云われて老人は、はじめて気づいたように、つくづくと頼母を見たが、
「なるほどのう、年が違う、前髪立ちじゃ。勘兵衛はわしより一つ年上だった筈じゃ。勘兵衛ではない」
落胆したように、また、安心したように、老人は、急に首を垂れ、振り上げていた刀を下げると、弱々しく、子供のように、栞へもたれかかった。赤い布のかかった艶々しい髪の下、栞の肩へ、老人の白髪頭が載っている。白芙蓉のような栞の顔が、頬が、老人の頬へ附いている。秩父絹に、花模様を染め出した衣裳の袖から、細々と白い栞の手が延びて、老人の肩へかかっているのは、車の上の老人を、抱介えているからであった。いつか老人の手から、刀も棒も放され、刀は、車の前の、枯れ草の上に落ちた。