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まぞう
魔像
林 不忘
Read 魔像 (まぞう) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 131,494 characters · 260 screens
どっか一晩旅籠でもとろうか」
「なアに……」
「なあにといったって、朝までここに、立ってもいられないしサ――」
「どうにかならあ」
「呑気だねえ。今ごろ家内の二人は……」
「馬鹿ッ! しかし、心もちは察するなあ」
「ほんとにねえ」
つくねんと立ちながら、ポソポソ話し合っていると、春寒の夜はヒッソリ更けて、犬の遠吠、按摩の笛、夜鳴きうどんに支那蕎麦のチャルメラ……ナニ、そんなのアないが、とにかく、深更である。寝しずまった帯屋小路の往来を、風に吹かれて白い紙屑が走って、番太の金棒が、向う横町をシャラン、シャランと――。
寒さがしみる。しゃがんでいたお絃が、ゾッと肩をすぼめて、
「ねえお前さん、こうしていると、夜中に店立てを喰らったようで、どう見ても、あんまりいい図じゃアないね」
ムニャムニャと茨右近が妙な返答をするから、見ると、喧嘩屋の先生、いつの間にか地べたに寝ッころがって、いい気持ちそうに白河夜船の最中とある。
「まア呆れた……」
呆れたとは言ったが、惚れぼれと寝顔を覗き込んだお絃、自分の半纏をスッポリ脱いで、掛けてやりながら、ふと気がつくと、家の中の灯が消えて、あたりは真っくらだ。