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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

Read あさひの鎧 (あさひのよろい) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 239,520 characters · 475 screens

Aozora Bunko

「浮藻、小次郎や、お別れだよ」

桂子の声は情愛深い中に、苦痛と威厳とを持っていた。

「将来逢えるか、生涯逢えぬか、それは神様のおぼしめし次第。……おお、でも、妾としては、逢いとうない! ……夫婦となったお前達には!」

桂子は歩き出した。

「お姉様!」

と追い縋って、浮藻はその腕へ縋ろうとした。

それを小次郎はしずかに止めて、

「お別れいたすでござりましょう」

と云った。

彼も桂子と住むことは、その心が許さなかった。

恐ろしい悲劇と不倫とが、一家の中に起こるだろう! そういう不安があったからである。

地に伏し仆れて咽び泣いている浮藻と、地につつましく両手ついて、顔も上げずに坐っている小次郎、この二人を後に見すてて、袈裟太郎を連れて桂子は、足早に林を出て行った。

林の中が静まったので、子を育ててでもいるらしい、母鳥の優しく啼く声が、小高い梢の塒の中から、歌うように聞こえて来た。

小次郎は立ち上がった。

「浮藻殿、参りましょう」

「…………」

嗚咽の声を立てながら、浮藻は弱々しく立ち上がった。

黙って二人は歩き出した。

晴れて夫婦になれるという、その喜びはあったけれど、桂子に永久見すてられたという、その悲しみが二人を圧し、かてて前途に光明のない、放浪の旅へ出たという、この不安が二人の心を、重く苦しく憂鬱にしていた。