Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
しんぱくのはなし
しんぱくの話
小川 未明
Read しんぱくの話 (しんぱくのはなし) by 小川 未明 (おがわみめい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 3,076 characters · 7 screens
そして、やがて同じように、しんぱくの前に立って、主人から話をきかされていました。
「それは、人間のちょっとゆけるような場所でありません。高山の、しかも奥深い嶮岨ながけの岩角にはえて、はげしいあらしに吹かれていた木です。このしみは、なだれに打たれた傷痕でございます。」
「一度そういう山へ、登ってみたいと思いながら、私たちには、そんな元気がない。せめてこの木でもながめて、あこがれた山へいったつもりでいましょう。」
紳士は、高価な金を払って、しんぱくを車の中へ持ち込みました。このとき、しんぱくは、命を賭けて取り、育ててくれたほどの人が、金銭で売ってしまった、その愛について疑わずにはいられなかったのでした。しかし、これが人間社会の掟でもあろうかと思ったのであります。
ついに、しんぱくは、岩頭のかわりに、紫檀の卓の上から垂れたのでした。そして、星のかわりに、はなやかな電燈が照らしたのでした。そして、周囲を舞うものは、あの可憐ないわつばめでなくて、人間の美しい男女らでした。きくのはあらしの唄でなく、ピアノの奏楽でした。この息詰まる空気の中で、木は、刻々に自分の生命の枯れてゆくのを感じながら、「見ぬうちは、みんながあこがれるが、おとぎばなしの世界はけっしてくるところでなく、ただ、きくだけのものだ。