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すみだがわ
すみだ川・新橋夜話 他一篇
永井 荷風
Read すみだ川・新橋夜話 他一篇 (すみだがわ) by 永井 荷風 (ながいかふう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 44,378 characters · 88 screens
六
」といいながらすたすた帰った。
六
長吉は風邪をひいた。七草過ぎて学校が始った処から一日無理をして通学したために、流行のインフルエンザに変って正月一ぱい寝通してしまった。
八幡さまの境内に今日は朝から初午の太鼓が聞える。暖い穏な午後の日光が一面にさし込む表の窓の障子には、折々軒を掠める小鳥の影が閃き、茶の間の隅の薄暗い仏壇の奥までが明く見え、床の間の梅がもう散りはじめた。春は閉切った家の中までも陽気におとずれて来たのである。
長吉は二、三日前から起きていたので、この暖い日をぶらぶら散歩に出掛けた。すっかり全快した今になって見れば、二十日以上も苦しんだ大病を長吉はもっけの幸いであったと喜んでいる。とても来月の学年試験には及第する見込みがないと思っていた処なので、病気欠席の後といえば、落第しても母に対して尤至極な申訳ができると思うからであった。
歩いて行く中いつか浅草公園の裏手へ出た。細い通りの片側には深い溝があって、それを越した鉄柵の向うには、処々の冬枯れして立つ大木の下に、五区の揚弓店の汚らしい裏手がつづいて見える。屋根の低い片側町の人家は丁度後から深い溝の方へと押詰められたような気がするので、大方そのためであろう、それほどに混雑もせぬ往来がいつも妙に忙しく見え、うろうろ徘徊している人相の悪い車夫がちょっと