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ロザリオのくさり
ロザリオの鎖
永井 隆
Read ロザリオの鎖 (ロザリオのくさり) by 永井 隆 (ながいたかし) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 107,351 characters · 213 screens
井上と山下
井上と山下
原子爆弾で私の教室の看護婦も死んだ。そのうちで山下秀子という子の印象はあれから二年になるのにちっとも淡くならない。井上ミツネという子は顔は思い出すけれども時々その名を思い出せぬことがある。井上は優秀な看護婦だった。山下は手に負えぬわがまま者だった。井上をしかったことは一度しかない。山下はほとんど毎日怒鳴られ通しだった。良い子だったミツネは忘れられ、悪い子の秀子がいつまでも心に残っている。
井上は松浦潟のたか島の娘であり、山下は不知火の天草島の娘だった。どちらも人なつこい島育ちであったが、性格はまるでちがって、一人はひれを振りつつ石になった佐用姫の情を秘め、いま一人はたしかに燃ゆる火の国の乙女の情を持っていた。
大学病院には看護婦養成所があり、二年生になると実地を体得するために各科に固定される。固定の時には一応志望を考慮するが、また全般の都合で志望以外の科に配置されることもある。井上はレントゲン科を志望して私らの教室に来たのであり、山下は志望に反して配置されたのだった。だから教室へ入った日からすでに態度がちがっていた。井上は好きな学科だったから進んで研究もしたし、教室の先輩につとめて親しく近づいた。