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ロザリオのくさり
ロザリオの鎖
永井 隆
Read ロザリオの鎖 (ロザリオのくさり) by 永井 隆 (ながいたかし) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 107,351 characters · 213 screens
十字架
花
大木
五銭
十字架
屋敷の東北の隅の灰の中をていねいに探していたら、ついに見出した。わが家の祭壇の十字架を。木の台はもちろん焼けてなくなっていたが、青銅のキリストだけはそのまま型も狂わず傷もつかず残っていた。これは徳川禁教時代からひそかに伝えられた由緒つきのものである。私はいっさいの財産を失ったが、この十字架ひとつだけは失わなかった。
花
カヤノが花よ、花が咲いてるよと手を引くままに杖を頼りに畑の隅に来てみれば、ちらばる瓦の上に一輪の朝顔、水色のあざやかさには思わずそこにひざまずいて、創造主のみ心に感謝したくなった。荒涼たる廃虚にはじめて贈られた美しきもの、やっぱり私らは神から忘れられていなかったわい。
大木
家のうしろにえのきの大木があった。枝のひろがりは家をおおうほどで樹齢三百年といい伝えられていた。それが一の枝の上からぽっきり折れて、いま巨大な幹を白々とさらしている。月日がたち、雨がいく夜も降ったが、大木はついにふたたび芽をふかなかった。
枯れた大木の根もとに朝顔は咲いている。
五銭
焼け出されたとき防空衣のポケットに五銭玉がひとつ入っていた。それが私の全財産だった。