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さんごくし
三国志(八)
吉川 英治
Read 三国志(八) (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N1. Tap a word for the meaning.
N1 · advanced · modern kanji and kana · 195,604 characters · 391 screens
何をか恐れん」
と、直ちに、諸将をあつめて、軍議をこらし、その結果、
(敵の備えなきを打つ)と、奇襲戦法をとることになった。
驍将張球は、もっとも壮な軽兵五千をひっさげて、湖口より攻めかかり、背には沢山の投げ炬火を負わせて行った。また満寵も、同じく強兵五千を指揮し、その夜二更、ふた手にわかれて、呉の水寨へ近づいた。
埠頭も、湖上も、波しずかに、月は白く、鴻の声しかしなかったが、やがて一時に、波濤天を搏ち、万雷一時に雲を裂くような喊声が捲き起った。
「夜襲だ」
「魏勢が渡ってきた」
呉軍はあわてふためいた。曹叡が観破したとおり、彼は余りにその重厚な軍容のうちに安心していたのである。刀よ、物の具よ、櫓よ櫂よ、と騒ぎ合ううちに、火雨のごとき投げ炬火が、一船を焼きまた一船に燃えうつり、またたく間に、水上の船影幾百、大小を問わず、焔々と燃え狂わざるなき狂風熱水と化してしまった。
この手の呉の大将は諸葛瑾であった。赤壁以来、船団の火攻は、呉が奥の手としているものなのに、不覚にも、呉はこの序戦において、かく大失態を演じてしまったのである。一夜の損傷は、武具、兵糧、船舶、兵力にわたって、実に莫大なものを失った。