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さんごくし
三国志(八)
吉川 英治
Read 三国志(八) (さんごくし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N1. Tap a word for the meaning.
N1 · advanced · modern kanji and kana · 195,604 characters · 391 screens
「またまた、辛毘が慰撫に下ってきたようです。魏軍の戦意も一頓挫でしょう」
「いや、ご辺の観方はちがう。将が軍にあっては、君命も俟たない場合がある。いやしくも仲達に我を制し得る自信があれば、何で悠々中央と往来して緩命を待っておるものか。――嗤うべし、実は彼自身、戦意もないのに、強いてその武威を衆に示そうための擬態に過ぎない」
また、或る日、魏の陣営で、「万歳」の歓呼がしきりにあがっていると報ずる者があった。孔明が、何故の敵の歓呼かと老練な諜者に調べさせると、
「呉が魏廷に降伏したという報が、いま伝わったらしいのです」
と老諜者は憂いをたたえて云ってきた。
すると孔明は、笑いながら、
「いま呉が降伏するなどということはどこから観てもあり得ない。汝は年六十にもなるのに、まだそんなくだらぬことを信ずるほどの眼しか持たないか」と愍れむ如く叱った。
三
孔明は五丈原へ陣を移してからも、種々に心をくだいて、敵を誘導して見たが、魏軍は完くうごきを見せない。
敵国の地深くへ進み出ながら、彼がなお自ら軍を引っ提げて戦わずに、ひたすら魏軍の妄動を誘う消極戦法を固持している理由は、実にその兵力装備の差にあった。