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いまどしんじゅう
今戸心中
広津 柳浪
Read 今戸心中 (いまどしんじゅう) by 広津 柳浪 (ひろつりゅうろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 36,688 characters · 74 screens
三
折から撃ッて来た拍子木は二時である。本見世と補見世の籠の鳥がおのおの棲に帰るので、一時に上草履の音が轟き始めた。
三
吉里は今しも最後の返辞をして、わッと泣き出した。西宮はさぴたの煙管を拭いながら、戦える吉里の島田髷を見つめて術なそうだ。
燭台の蝋燭は心が長く燃え出し、油煙が黒く上ッて、燈は暗し数行虞氏の涙という風情だ。
吉里の涙に咽ぶ声がやや途切れたところで、西宮はさぴたを拭っていた手を止めて口を開いた。
「私しゃ気の毒でたまらない。実に察しる。これで、平田も心残りなく古郷へ帰れる。私も心配した甲斐があるというものだ。実にありがたかッた」
吉里は半ば顔を上げたが、返辞をしないで、懐紙で涙を拭いている。
「他のことなら何とでもなるんだが、一家の浮沈に関することなんだから、どうも平田が帰郷ないわけに行かないんでね、私も実に困っているんだ」
「家君さんがなぜ御損なんかなすッたんでしょうねえ」と、吉里はやはり涙を拭いている。
「なぜッて。手違いだからしかたがないのさ。家君さんが気抜けのようになッたと言うのに、幼稚い弟はあるし、妹はあるし、お前さんも知ッてる通り母君が死去のだから、どうしても平田が帰郷ッて、一家の仕法をつけなければならないんだ。