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はいじんぶそん
俳人蕪村
正岡 子規
Read 俳人蕪村 (はいじんぶそん) by 正岡 子規 (まさおかしき) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 26,831 characters · 54 screens
複雑的美
複雑的美
思想簡単なる時代には美術文学に対する嗜好も簡単を尚ぶは自然の趨勢なり。わが邦千余年間の和歌のいかに簡単なるかを見ば、人の思想の長く発達せざりし有様も見え透く心地す。この間に立ちて形式の簡単なる俳句はかえって和歌よりも複雑なる意匠を現わさんとして漢語を借り来たり佶屈なる直訳的句法をさえ用いたりしも、そは一時の現象たるにとどまり、古池の句はついに俳句の本尊として崇拝せらるるに至れり。古池の句は足引の山鳥の尾のという歌の簡単なるに比すべくもあらざれど、なお俳句中の最も簡単なるものに属す。芭蕉はこれをもってみずから得たりとし、終身複雑なる句を作らず。門人は必ずしも芭蕉の簡単を学ばざりしも、複雑の極点に達するにはなお遠かりき。
芭蕉は「発句は頭よりすらすらと言い下し来たるを上品とす」と言い、門人洒堂に教えて「発句は汝がごとく物二、三取り集むる物にあらず、こがねを打ちのべたるごとくあるべし」と言えり。洒堂の句の物二、三取り集むるというは
鳩吹くや渋柿原の蕎麦畑
刈株や水田の上の秋の雲
の類なるべく、洒堂また常に好んでこの句法を用いたりとおぼし。しかれども洒堂のこれらの句は元禄の俳句中に一種の異彩を放つのみならず、その品格よりいうも鳩吹、刈株の句のごときは決して芭蕉の下にあらず。