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ひかりはかげを
光は影を
岸田 国士
Read 光は影を (ひかりはかげを) by 岸田 国士 (きしだくにお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 138,262 characters · 276 screens
二キロあまりの田圃道を、なんとなくのんびりした気分でゆつくり歩いた。
村としてはまず中位と思われる農家の玄関に立つと、昼間の屋内には人ッ気がなく、しばらく案内を乞いつゞけているうちに、耳の遠そうな老婆が奥から出て来た。
「秀人君はおいでですか? わたくしは、同じ部隊にいて、一緒に引揚げて来た京野というものですが……」
老婆はなにやら口の中で呟きながら、奥へ引つ込み、やがて、十五、六の小娘が現われて、兄さんは役場へ行つているから呼んで来ると言つて、そのまゝ出て行つてしまつた。
別に上れともいわず、掛けろとすゝめるでもなく、老婆は、彼のいることを忘れてしまつたように、奥へ姿を消したきりである。
ものゝ三十分も待たされたであろうか。外から大声で話をしながら、二人連れの男がはいつて来た。その一人は、たしかに百瀬秀人であつた。
「珍らしい人物が現れたね。なにごとずら、いつたい」
「なにごとというほどのこともないが、君の自慢の村を見せてもらいに来た。急に思いたつて、ふらつと汽車へ乗つたんだ」
「はてな、わしは村の自慢なんどした覚えはねえが、まあ、よかろう。江戸ッ子京野元軍曹にトロヽ飯でもご馳走せじや」