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ひかりはかげを
光は影を
岸田 国士
Read 光は影を (ひかりはかげを) by 岸田 国士 (きしだくにお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 138,262 characters · 276 screens
変転の外に
一
「へえ、新橋ですか……」
と、彼は、眼を丸くした。そして、妹美佐のことが、ふと喉まで出かゝつたけれども、それは、つい口に出ししぶつた。
「だれか、ご存じ?」
「いや、いや、僕は、その方面とはまつたく縁がありません。たゞ……」
と、この時、やつと、腹がきまり、
「たゞ、僕の妹が、やつぱり芸者をしていましてね、新橋で……」
「あら、なんておつしやるの?」
「小菊とかいう名で出ていました。本名は、美佐ですが……」
彼が、名前をいうと同時に、女主人は、それこそ、後ろへ倒れるかと思うほど、大げさに反り返つて、
「あら、まあ……小菊ちやん……こないだ、あんなことになつた……あたしの、一番の仲よし……」
それは、まんざら、嘘でもないらしい、どこか、その親しみをこめた呼び方でこつちをも引きずり込むような、調子であつた。
変転の外に
一
遠矢幸造の隠し妻、平山いく、が、妹美佐の親しい友達であつたという事実は、なるほど、話を聞けば聞くほどよくわかつた。しかし、京野等志がなによりも意外に思い、ふと胸をつまらせ、これが感傷というやつだな、と、われながら自分を叱りつけたくなつたのは、平山いくが、妹美佐の親兄弟について語つた一切の言葉を、決して反感や敵意を含んだものでなく、常に肉親の愛情を信じ、しかも自らそれに叛かないわけにいかなかつた苦しさを訴える