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けんのよんくんし
剣の四君子
吉川 英治
Read 剣の四君子 (けんのよんくんし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 10,514 characters · 22 screens
三
長柄も背丈も届かぬ梢も、心して跳んで伐って見やい。それしきもの斬れねば、殿様の御馬前に立って、戦の場で人勝りの働きはならぬぞい」
と、云い聞かされて、七ツ八歳頃からし始めたことであった。雨さえ降らなければ、日課のように、
「甚助。薪を伐ろして来やい」
母は、いいつけた。
よく斬れると、遠くで、見ている母が微笑んでくれる。それが欣しさに、甚助は、高い樹へ、高い樹へと、次第に望みを大きく育てて、長柄を小脇に、仰いで迫った。
三
大同年間からあるという部落でいちばん古い杉木立がある。そこに熊野神社が祀ってあった。部落の名をそのまま林崎明神ともよんでいる。
禰宜の山辺守人は、時鳥や仏法僧の啼音ばかりを友として、お宮の脇の小さい社家に住んでいたが、甚助の姿が見えると、かたこと木履の足音をさせて出て来た。
麦餅や、麹飴などつつんで、
「甚助、菓子やろう」
と寄って来る。そして甚助の、鳥の巣のような頭を撫でて、一話しするのが、禰宜の守人にとっては、一日のうちで、人間と話をする唯一な時間のようであった。
ところが、その日に限って、甚助は、
「お菓子、要らない」
と、首をふって、守人をいぶからせた。