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けんのよんくんし
剣の四君子
吉川 英治
Read 剣の四君子 (けんのよんくんし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 10,514 characters · 22 screens
五
坂上主膳という武士のために、楯岡の藩祖の菩提寺のすこし下手町の辻で斬られたのであった。原因は意趣、その詳らかな事実は、おまえがもっと大人になれば自然分ってくる。母御もまた、話す折があろうと、守人は云った。
「わかったか」
「わかりました」
甚助は、そこでは泣かなかった。
青白い栗の花が咲いている厩の横に佇んで、独り眼を横にこすっていた。父の林崎重成が乗用したという馬も老いて、数年前に死んでいた。
五
元服したばかりの十五の甚助は、ひたむきに、何ものかを求めて、旅へ立った。
勿論、母のゆるしを得て。
世間も知らないそんな若冠の子を遠くへ見送るのに、当時の若い母親は健気であった。しかも戦乱に次ぐ戦乱の世であった。
その年はちょうど川中島の大戦の翌年であった。
「大胡のお城はどこですか」
上州へ来た甚助は、そこの城主、上泉伊勢守秀綱をさがした。
「お城はないよ」
土地の者は云った。
「伊勢守様も、もう都の空だよ。大胡城は去年、上杉勢に攻め落されて、石垣と焼け木杭しか残っていない。そこに今あるのは、上杉家の侍衆のお陣屋さ」
こう聞いて、甚助は空しく、常陸国へ志した。