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なんぽうゆうしん
南方郵信
中村 地平
Read 南方郵信 (なんぽうゆうしん) by 中村 地平 (なかむらちへい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 20,899 characters · 42 screens
爺さんはトヨの尻に激しいひとむちをくれる。するとさなきだに菜の花の匂いに興奮していたトヨは、まるで忘れていた若い血が急にたぎりあがってきたかのように、忽ちギャロップの姿勢に移る。小石の多い凸凹径に、馬車は騒々しい音をたて、物凄く震動しながら、いっさんに駈けてゆく。黄色い花の穂が三太の眼から後ろへ、後ろへと逃げてゆく。しかし、花の穂は無限に続いていて、遠く遠く霞んだように白雲のなかへ消えている。
菜の花畑では百姓たちが長閑そうに野良仕事をしているが、賑やかな車輪の響を耳にすると、仕事をやめて、いちように背のびする。そして、祠のなかに小さな姿で端坐している三太に気がつくと、明るい陽の光りのなかに、まぶしそうに眼を細めて、笑うのである。
「あれ、ほんに小さか生き神さまじゃなあ」
背や袖に黄色い花びらをつけているお主婦さんや、娘たちは花の穂のなかに小腰をかがめ、めいめい両手を合わして、その生き神さまを拝んでくれる。
キラキラする白雲の光りや、強い花の匂いや、はげしい馬車の弾動や、百姓たちの冗談やに、三太は酔っ払ったように上気している。
御者台に三太は話しかける。