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くちぶえをふくぶし
口笛を吹く武士
林 不忘
Read 口笛を吹く武士 (くちぶえをふくぶし) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 10,467 characters · 21 screens
あるかなしの風。綿は、その風に乗って、白い蛾のように空に流れた。
本所二つ目の橋のほうへ飛んだ。
「東か――。」ぶらりと歩き出した。「そうだ。面白い。ひとつ、東海道筋へ出張ってやれ。」
二
海が見える。灰いろの海だ。舟が出ている。道は、ちょっと登りになって、天狗の面を背負った六部がひとり、町人ていの旅ごしらえが二人、せっせといそぎ足に、ひだり手には、杉、欅の樹を挾んで、草屋根の檐に赤い提灯をならべ、黒ずんだ格子をつらねた芳屋、樽や、玉川などの旅籠に、ずっこけ帯の姐さんたちが、習慣的な声で、
「お泊りさんは、こちらへ――まだ程ヶ谷までは一里九丁ござります。」
「仲屋でございます。お休みなすっていらっしゃいまし。お茶なと召しあがっていらっしゃいまし。おとまりは、ただいまちょうどお風呂が口あきでございます。」
神奈川の宿だ。その中ほどに、掛け行燈の下に大山講中、月島講中、百味講、神田講中、京橋講中、太子講――ずらりと札の下がったわき本陣、佐原屋は今日、混んでいた。その、裏二階の一室に、障子をとおして、しずかな声がする。
「いや、江戸に公事用がありましてな、これは、訴訟ごとに慣れませんので、伯父のわたくしが、後見役に出府することになりましたわけで、はい。