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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
Read 名人地獄 (めいじんじごく) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 149,286 characters · 301 screens
「やれ助かった」と手を延ばし、パチリと黒石を置いたものである。「まずこれで脈はある」
「それはわからぬ」とどなったのは、縁の上の一閑斎で、「刃の稲妻、消えた提灯、ヒーッという女の悲鳴、殺されたに相違ない!」
「いや私は碁の事だ」
「ナニ碁?」と、いかにもあきれたように、「人が殺されたのだ! 人が殺されたのだ! 行って見ましょう。さあさあ早く!」
「いや、それなら大丈夫」平八老人は悠々と、「提灯の消えたのは私にも見えた。が、私にはお前様のいう、刃の稲妻は見えなかった」
「フ、フ、フ、フ、実はそのな。……」
「お前様にも見えなかった筈だ」
「さよう、実は、おまけでござるよ」
「芝居気の抜けぬ爺様だ。刃の稲妻の見えるには、いささか距離が遠過ぎる」
「……が、あの悲鳴は? 消えた提灯は?」
「それがさ、変に間延びしている」
「殺人ではないのかえ?」
「ナーニ誰も殺されはしない」
登場人物はまさしく五人
しかし主人は不安そうに、「確かかな? 大丈夫かな?」
「三十の歳から五十まで、寛政七年から文政元年まで、ざっと数えて二十年間、私はこの道では苦労しています」
「が、そのお偉い『玻璃窓』