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やまとこじふうぶつし
大和古寺風物誌
亀井 勝一郎
Read 大和古寺風物誌 (やまとこじふうぶつし) by 亀井 勝一郎 (かめいかついちろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 108,647 characters · 215 screens
人間の祈りが結晶して、月のある天上に向ってそそり立つなどということはこの世の出来事とは思われない。
塔は幸福の象徴である。悲しみの極みに、仏の悲心の与える悦びの頌歌であると云ってもいい。金堂や講堂はどれほど雄大であっても、それは地に伏す姿を与えられている。その下で人間は自己の苦悩を訴え、且つ祈った。生死の悲哀は、地に伏すごとく建てられた伽藍の裡にみちているであろう。しかし塔だけは、天に向ってのびやかにそそり立っている。悲しみの合掌をしつつも、ついに天上を仰いで、無限の虚空に思いを馳せざるをえないように出来あがっているのだ。人生苦のすべては金堂と講堂に委ねて、塔のみは一切忘却の果に、ひたすら我々を天上に誘うごとく見える。しかも塔の底には仏の骨が埋められてあるのだ。
大和古寺には様々の塔がある。法隆寺の塔のもつ巍然たる威容は、上宮太子の御人格そのままと申していいほど立派なものである。鳥仏師の釈迦三尊にみらるるような絶対帰依に由る厳格さを偲んでもよかろう。また法起寺と法輪寺の三重塔は飛鳥の小仏のごとく古樸で可憐な一面をもつ。二上山を背景に、中腹に立つ当麻寺の東西両塔の典雅な有様、あるいは室生寺の大杉の間に立つ五重塔の華麗な姿も忘れられない。