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やまとこじふうぶつし
大和古寺風物誌
亀井 勝一郎
Read 大和古寺風物誌 (やまとこじふうぶつし) by 亀井 勝一郎 (かめいかついちろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 108,647 characters · 215 screens
「卿が道ふ所の如くば、其の勝たむこと必ず然らむ。但だ吾が情に冀ふは、十年百姓を役はず、一身の故を以て、豈に万民を煩はし労らしめむや。又後世に於て、民の、吾が故に由りて、己が父母を喪せりと言はむことを欲せじ。豈に其れ戦勝ちての後に、方に大夫と言はむ哉。夫れ身を捐て国を固くせむは、亦大夫ならざらむや。」
その頃の政情をかえりみるとき、この決断は未曾有のことであったと云えよう。外戚の専横に由る皇位の問題は国家の大事である。蘇我馬子はそのため既に一帝二皇子を弑している。同族の嫉視陰謀がいかに悲しむべき流血の惨事を招いたか、上宮太子の信仰はその切なる体験に発したものであることはすでに述べた。御父君の心を継いで、山背大兄王は自らその一因たることを拒絶されたのである。万民への配慮も深く、一身の犠牲において忍び難きを忍ばれたのであった。それは信仰の決意であった。
山背大兄王は胆駒を出で、従容として斑鳩寺(法隆寺)に入られる。やがて入鹿の軍勢が寺を包囲したとき、侍臣をして「吾が一身をば入鹿に賜ふ」と告げられ、一族とともに自頸されたのである。子弟妃妾十五人時を同じゅうして悉くこれに殉じた。