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やまとこじふうぶつし

大和古寺風物誌

亀井 勝一郎

Read 大和古寺風物誌 (やまとこじふうぶつし) by 亀井 勝一郎 (かめいかついちろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 108,647 characters · 215 screens

Aozora Bunko

東大寺は常在不滅、実報寂光の生身の御仏と思めし準へて、聖武皇帝、手ら親ら琢き立給ひし金銅十六丈の廬舎那仏、烏瑟高く顕れて、半天の雲にかくれ、白毫新に拝れ給ひし満月の尊容も、御頭は焼落ちて大地に有り、御身は鎔合て山の如し、八万四千の相好は、秋の月早く五重の雲に掩隠れ、四十一地の瓔珞は、夜の星空しく十悪の風に漂ふ。煙は中天に満々て、炎は虚空に隙もなし。視りに見奉れる者、更に眼を当ず、遥に伝聞く人は、肝魂を失へり。法相三論の法門聖教、総て一巻も残らず。我朝はいふに及ばず、天竺震旦にも是程の法滅有るべしともおぼえず、優填大王の紫磨金を瑩き、毘首羯摩が赤栴檀を刻しも、纔に等身の御仏なり。況や是は南閣浮提の中には、唯一無双の御仏、長く朽損の期あるべしとも覚えざりしに、今毒縁の塵に交て、久く悲を残し給へり。梵釈四王、竜神八部、冥官冥衆も、驚き騒給ふらんとぞ見えし。法相擁護の春日大明神、如何なる事をか覚しけん。されば春日野の露も色変り、三笠の山の嵐の音、恨る様にぞ聞えける。」

東大寺炎上の状景、この一節によって完璧であろう。壊滅の壮麗を叙し、炎の熱気をさえ感じさせる文章である。