Japanese reading practice

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だいぼさつとうげ

大菩薩峠1

中里 介山

Read 大菩薩峠1 (だいぼさつとうげ) by 中里 介山 (なかざとかいざん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 200,314 characters · 398 screens

Aozora Bunko

「待て!」

うつむいた面がバネのように上ると、竜之助は刀を取っていた。

「逃げるか!」

「いいえ」

「そこへ坐れ」

その眼で睨められた凄さ。この人の身の廻りには、魔物のように物を引く力がある。夢で怖いものに追われたように、逃げようとすれば足がすくむ。

「うーむ」

竜之助は、また額を押えて唸る、そのうなり声を聞くと地獄の底へ引き込まれそうです。

「ああ――」

竜之助は、そろそろと面を上げて、

「これこれ女」

思いのほか静かな声で、

「妙な気持になった、お前に少し聞いてもらいたいことがあるがな」

「何でございましょう」

「いや、拙者も国を出てから長いことになるが、思い出せば子供が一人ある」

なんという話頭の変り方であろう。しかしその言葉には、なんとも言われぬ痛々しさがあります。

「お子様がおありなさる……」

「郁太郎と名をつけて男の児じゃ」

「はい」

「もし縁があって、お前がその男の児にめぐり会うような折もあらば、剣術をやるなと父が遺言した、こう申し伝えてもらいたい」

「そのお子様に、あなた様が御遺言……」

「そうだ、生前の遺言じゃ。拙者の家は代々剣術の家であったが、もう剣術をやめろと言ってもらいたいのじゃ」