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だいぼさつとうげ
大菩薩峠4
中里 介山
Read 大菩薩峠4 (だいぼさつとうげ) by 中里 介山 (なかざとかいざん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 264,133 characters · 524 screens
七
南条と呼ばれた奇異なる武士は、こう言いながら静かに、格子の角を引いているのであります。
兵馬はぜひなく寝床の方へ退きました。兵馬は蒲団を引被ぎながら、格子の角に引かれる鑢の微さな音を聞いていました。
兵馬は正直な心で、今まで待っていました。己れの疚しいことさえなければ、泰然として待っているうちに、天は必ず己れを助くるものだと信じていました。非法に囚われたけれど、自分は法を犯してそれを逃れようとはしませんでした。しかし今という今、その心に動揺が起らないわけにはゆきません。
七
駒井能登守は例の洋風に作った一間に籠って、このごろは役所へもあまり出勤せず、また調練も暫らく他の者に任せておきました。
この一間に籠った能登守は、人を諸方に遣わして土を集めさせています。自分もまた、思い立ったように外へ出ては土を集めて来るのであります。
集めた土を分析したり、また火にかけたりして験すことに、ほとんど寝食を忘れるくらいの熱心でありました。
能登守が預かって、城内の調練場で扱っている虎砲十二磅砲というようなのは、伊豆の江川の手で出来たものであります。伊豆の江川は能登守と同じく、高島四郎太夫を師とするものであります。