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ぜにがたへいじとりものひかえ
奇譚 銭形平次 「銭形平次捕物控」傑作選
野村 胡堂
Read 奇譚 銭形平次 「銭形平次捕物控」傑作選 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 31,249 characters · 62 screens
「怖い、どうしたわけだ」
「お母さんは、殺されるに違いないと、自分で座敷牢のようなものを拵えて入り込み、私のほかは誰も入れません。それで、お母さんは御無事でも、こんどは私が――」
お君は夜の霧の中に、自分を狙う魔性のものでも潜んでいるように、ぞっと身をふるわせて、四方を見廻すのです。
「お嬢さんに、どんなことがあったんで」
八五郎はそれを労わるように、小腰を屈めて、白々と夜霧に包まれた娘の顔を覗きました。
「なんともいえない、無気味なことばかりなんです。私は離屋の入口の、お母さんの隣の部屋に寝んでいますが、夜中に変な物音がしたり、雨戸の外で人の声がしたり、私をここから追い出そうとしている様子なんです。番頭の為之助どんに相談すると、離屋に泊っていちゃ危ないから、母家へ移った方が無事だろうと言いますが」
「それから」
「昨夜なんか、窓から不気味なものが見えたり」
娘心を脅かすものは、なかなかに怪奇でお君はその正体を説明する由もありません。
「お母さんには、それを話さないのかえ」
「言ったところで、心配させるばかりですもの。そうでなくてさえ、お母さんも、いつ殺されるかもしれないと、そればかり気にしているんですもの」