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ぜにがたへいじとりものひかえ
奇譚 銭形平次 「銭形平次捕物控」傑作選
野村 胡堂
Read 奇譚 銭形平次 「銭形平次捕物控」傑作選 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 31,249 characters · 62 screens
銭形平次捕物控
一
一
「ヘッヘッ、ヘッ、ヘッ、近頃は暇で暇で困りゃしませんか、親分」
「馬鹿だなア、人の面を見て、いきなりタガが外れたように笑い出しやがって」
「でも、銭形の親分ともあろう者が、日向にとぐろを巻いて、煙草の煙を輪に吹く芸当に浮身をやつすなんざ天下泰平じゃありませんか。まるで江戸中の悪者が種切れになったようなもので、ヘッ、ヘッ」
「粉煙草がひとつまみしか残っていないのだよ。芸当でもやらなきゃ、煙が身につかねえ」
「煙草の煙を噛みしめるのは新手ですね。尤もあっしなんかは、猫が水を呑む時のように、酒を嘗めて呑むてを考えた。一合あると請合い一刻は楽しめますぜ」
親分も貧乏なら、子分も貧乏でした。八丁堀の旦那方をはじめ、江戸の岡っ引の大部分が、付け届けと役得で、要領よく贅沢に暮している中に、平次と八五郎は江戸中の悪者を顫え上がらせながらも、相変らず潔癖で呑気で、その日その日を洒落のめしながら暮しているのです。
「呆れた野郎だ、そんなことをしたら呑む下から醒めるだろう。それより鼻の穴から呑んでみねえ、とんだ利きが良いぜ」
「ところで、そんなに暇なら、少し遠出をしてみちゃどうです」