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いえ
家
島崎 藤村
Read 家 (いえ) by 島崎 藤村 (しまざきとうそん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,411 characters · 285 screens
熱い地の息と、冷しい風とが妙に混り合って、窓を通して入って来る。単調な蝉の歌は何時の間にか彼の耳を疲れさせた。
憂鬱な眼付をして、三吉が昼寝から覚めた時は、虻にでも刺されたらしい疼痛を覚えた。お俊は髪に塗る油を持って来て、それを叔父に勧めた。
「延ちゃん――まあ、来て御覧なさいよ」とお俊が笑いながら呼んだ。「三吉叔父さんはこんなに白髪が生えてよ」
お延は勝手の方から手を振ってやって来た。
「オイ、オイ」と三吉は自分の子供にでも戯れるように言った。「そうお前達のように馬鹿にしちゃ困るぜ……これでも叔父さんは金鵄勲章の積りだ」
「あんな負惜みを言って」とお延は訳も無しに笑った。
「ねえ、延ちゃん、有れば仕方が無いわ」と言って、お俊は叔父の傍へ寄って、「叔父さん、ジッとしていらッしゃい――抜いて進げましょうネ。前の方はそんなでも無いけれど、鬢のところなぞは、一ぱい……こりゃ大変だ……容易に取尽せやしないわ」
お俊は叔父の髪に触れて、一本々々択り分けた。凋落を思わせるような、白い、光ったやつが、どうかすると黒い毛と一緒に成って抜けて来た。
「叔父さん、どうしてこんなに髪がこわれるんでしょう」