Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Read 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 193,050 characters · 383 screens
その極貧窟のいろは長屋から、すぐ一側表の通りには、山手の異人街から根岸競馬場やナンキン墓方面へ通じる一すじの町がある。その相沢と呼ぶ町通りにも、ぼくは当時の風俗詩的な思い出を幾つか新たにすることができる。わけて鮮やかに思い出せるのは、在留シナ人の葬式と、明治天皇行幸の鹵簿であった。
もうあんな中華の古典的葬列の色彩は、現在では中共の奥地でも見られまい。柩の輿は、金箔と五色の泥彩で塗られ、大勢のシナ人が舁いで行った。刺繍の袍みたいな衣服を着た道士だの祭司がそれを繞り、前後には、竜頭の弔旗や旛が林立してゆく。また、供物とする豚の丸揚げを担ってゆく者だの、親族縁者らしき人々が、えんえんと人力車をつらねてつづくのだ。中でも一つの車上には、髪をふりみだした“泣き女”と称する女性が、それこそ誇張でなく、白昼の下に、声をかぎり号泣をしつづけて行くのである。
行列の中では、銅鑼が鳴り、鉦が叩かれ、泣き女の異様な啼泣と相和して、それは何とも不思議な音階を町に流しつつ練り歩くものだった。居留地の南京街でも、豪商とか何とかいわれる著名人の葬式でもあると、泣き女も一人や二人ではなく、彩旗はへんぽんと相沢の町に続き、五色紙の散蓮華やら餅菓が路傍の見物人へ撒かれたりして、ぼくら子供は、その演出と天来の奇観にはしゃぎ立ッて、ぞろぞろ