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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Read 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 193,050 characters · 383 screens
明治四十年
明治四十一年
明治四十年(1907) 十五歳
絵画への興味が高まる。店の筋向いの実業家脇沢金次郎老に励まされ、帳場机にて絵ばかり書いて暮す。夜間中学の簿記、算術など苦痛にて、夜は伊勢佐木町のみ歩く。愚連隊には入らなかったが、不良的傾向顕著。
父、再度没落。閉店。
また戸部の裏長屋に引っ込む。同時に父の病体悪化し、以後長年、殆ど病臥の人となる。四男、晋生る。
年の暮、日出町の海軍御用雑貨商続木商店に、少店員となって住み込み、給金半年分を前借して母に渡す。
明治四十一年(1908) 十六歳
正月早々、横須賀支店へ移される。多くの仕事は碇泊中の艦艇の酒保に、酒類、缶詰、雑貨などの納入運びにある。いつも埠頭まで満載の荷車を曳く。軍艦新高のタラップの中途よりサイダー箱を担いで登り損ね、海中に墜落したことなどある。
母に渡した半年分の前借給金のうちより買った物なりと、家より古本の俳句雑誌およそ二、三百冊を行李に詰めて送ってよこした。狂喜に似た感動をうけた。夜毎、せんべい蒲団へ二、三冊持ちこんで寝た。
母より便りのたび貧乏いよいよ、どん底の様子。母も病床の父も、手内職で細々ではあるが、長女も工場働き、次女は伊勢佐木町のしる粉屋のお茶汲みに住み込んだとのこと。