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みっつのあざ
怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集
小酒井 不木
Read 怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集 (みっつのあざ) by 小酒井 不木 (こざかいふぼく) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 196,140 characters · 396 screens
妊娠が進むにつれて悪阻を起して来ました。そればかりでなく段々気が荒くなってまいりました。そして敏感になったその心はいつの間にか私と鬼頭さんとの間を感付いてしまいました。それからというものは、無暗に「ツノダ」という文字を紙という紙に書き散らしてまるで、私たちを呪うかのように駄々をこねました。私はその紙を悉く焼き捨てて居りましたが、こうなると、いつ何時妹の秘密が世間へ知れてしまうかもしれませんから、私たちは彼処に五日此処に四日と転宅ばかりして歩いたので御座います。
鬼頭さんも妹の行動には、殆ど持て余して居りました。そして私との間が段々濃くなって行くにつれ、いつの間にか私と鬼頭さんの間に恐しい考えが醸されて居たので御座います。妹を亡きものにすれば、凡ての秘密は葬られてしまい、私たちは夫婦になれるという考えを抱いたので御座います。鬼頭さんは身許の知れぬ唖娘を殺したとて決して知れるものではない、身許が知れなければ犯人は罰せられる筈はないというので、私たちは妹を殺す計画を致しました。四五日前巣鴨に移って其処で機の熟するのを待ち、愈よ当日になって鬼頭さんは荷物を纏めて飯田町の停車場に持って行き、妹にはその夜引越しするのだといって連れ出し、いつも引越しには人目につかぬ夜分を選んで居ました。