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みっつのあざ
怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集
小酒井 不木
Read 怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集 (みっつのあざ) by 小酒井 不木 (こざかいふぼく) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 196,140 characters · 396 screens
私は心の中で、「そんなに何喰わぬ顔をして居たとて駄目だよ、今にびっくりさせられるから覚悟をするがよい」と呟き乍ら、例の如く腸を切り出してガラス器に取りつけました。と、その時、今迄無表情であったその眼に、案の如く好奇の色があらわれました。
解剖室の中には、白い手術服を着た私と助手と小使、その外に司法官と警官が一人ずつ、容疑者を加えて都合六人居りますが、決して口をきかぬことにしてありますから、あたりは森として居て、音のない腸の運動が、聞えはすまいかと思われる程の静かさです。人々は一斉に腸管を見つめました。やがて腸は軽く動き出し、凡そ十回ぐらい伸縮を繰返したと思う時、どうした訳か吊してあった糸がぽっつり切れて、腸の上端が、ガラスの容器の縁にひょいと載りかかりました。丁度その方向が容疑者の真正面に当りましたので、恰も一匹の白蛇が、彼に向って飛びかかるかのように見えたのです。
あっと云う間もなく、彼は腸のはいったガラス器をめがけて突きかかりました。ガラスの割れる音がして、水があたりに飛び散りました。その時私は、腸が床の上に見つからなかったので、何処へ行ったかと思って見まわすと、彼の首筋の後ろの襟の間に、とぐろを巻いて載って居ました。