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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
Read 新・水滸伝 (しん・すいこでん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 684,899 characters · 1374 screens
その方向を天意が示す占と見て、楊志は、何処の地へ出る道とも知らず、やがてよろよろ麓の方へ降りていった。
その夜も、かなり更けてから、
黄泥岡の一端では、ようやく、執事だの強力の兵どもも、夜露の冷気に甦って、ごそごそ這い起き、
「さあ、どうしよう?」
と、今さらな不覚を喞ちあっていた。
「楊は、逃げたな」
執事の謝は、身の不始末を棚に上げ、何よりそれを罵った。
「いま思うと、あいつは薄々、毒酒を感づいていたのかも知れんぞ。いやいや、なんでもかでも、この場のことは、そういうことにしてしまおう。よいか者ども」
「こち徒の落度にゃなりませんかね」
「有ていにいったら、みんな首だ。だから先を越して、夜明け次第に、まずこの地方の役署へ訴えを出しておく。よろしいか」
「へい、どんなふうに」
「なにもかも、楊志の仕業と、彼奴におっかぶせてしまうのだ。黄泥岡の匪賊と気脈を通じ、ことば巧みに、われわれどもへ毒酒を飲ませ、あげくの果て生辰綱の宝はみな、横奪りして、消え失せましてござりますと。わかったろうな。どこで調べられても、口を合せて、押し通すのだぞ」
「わかりました。野郎には、遺恨骨髄、どうでも、そういうことにいたしましょう」