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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

Read 新・水滸伝 (しん・すいこでん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 684,899 characters · 1374 screens

Aozora Bunko

花嫁の臍に毛のある桃花の郷を立ち、 枯林瓦罐寺に九紋龍と出会いのこと

花嫁の臍に毛のある桃花の郷を立ち、

枯林瓦罐寺に九紋龍と出会いのこと

奇異なる旅の子魯智深は、幾度も山に臥し、野に枕したが、野獣猛禽も恐れをなしてか、彼の寝姿と鼾声のあるところは、自然一夜の楽園と化し、なんの禍いも起らなかった。

もっとも智深は身に一トかたきの食糧を持つではなし、金銀は元より帯ぶるところにあらずだから、これを襲ってみたところで、得るものは何もありはしない。――その夕べも、腹をぺこぺこにして、やっと山中の一村に辿りついた彼だった。

「おうこの辺は、たいそう桃の多いところだな。今や桃の花ざかり。そうだ、今夜は一つそこらの桃林に寝て、武陵桃源の夢とでも洒落ようか」

――すると、鶴のごとき一人の老人。彼が立ち入りかけた桃林の傍らから出てきて。

「もしもし、お旅僧。こよいは当家にちと取り混み事がございますし、それに不慮のお怪我でもなさるといけませんから、ほかへ行ってお休みくださらんか」

「おぬしは誰だ」

「この桃花村の旧家で、劉家のあるじでございますが」

「……どうしたのだ、いくら老人にせよ、まるで粘土のような顔いろをして、いまにも泣きだしそうなその容子は」