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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
Read 新・水滸伝 (しん・すいこでん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 684,899 characters · 1374 screens
宋江、小旋風の門を叩くこと。 ならびに瘧病みの男と会う事
宋江、小旋風の門を叩くこと。
ならびに瘧病みの男と会う事
暁の星が白っぽく、旧家の池の枯れ蓮に風もない。一葉一葉と落ちる梧桐の木に、いつも来て歌う鳥の音も、今朝は何か宋家の父子の腸には、沁み入るような悲しみがある。
「気をつけて行けよ。あとのことは案じるなよ」
宋老父は、老いの眼に、涙をためて、この朝、二人の子を、家の裏門から小雨のような霧の小道へ見送った。
宋江とそして、その弟の宋清とをである。
宋清は罪もないので、「家に残って、老父の余生に孝養をつくしてくれ」と宋江は言ったのだが、老父は「いやいや、いつまた、知事が代って、再吟味されまいものではなし、また、今の世相はあてにもならぬ。こんな旧家を持ち支えるため、宋清も、あたら一生をつぶすことはないわ。兄に従ってどこへでも行き、悔いない一生を送るがいい」と、たって共に旅立たせたものだった。
老父の慨嘆も、理由なきではない。
たとえば。
宋家の内に、地下の穴蔵があったことなどもその一端をものがたっている。――当時の宋朝廷下の官吏には、奸佞、讒訴、賄賂、警職の乱用、司法の私権化など、あらゆる悪が横行していたので、その弊風は、州や県の地方末端の行政面にも、そのまま醜悪を大なり小なりつつんでいた。