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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

Read 新・水滸伝 (しん・すいこでん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 684,899 characters · 1374 screens

Aozora Bunko

「おふざけでない。やっとこ喰べるがせきの山の饅頭売りのくせにしてさ。こんな甲斐性なしの亭主ってあるかしら。ちッ、薄野呂の、おんぼろ宿六、勝手におしッ」

「晩の酒は買ってあるかい。ねえ金蓮、何をぷんぷんするんだよ」

「お酒。そんな稼ぎを誰がしたの」

「弟がお金をくれて行ったじゃないか」

「あれッぱかしの金、いつまであると思ってるんだ。とうに近所の払いに消えてますよ。あしたから、こんな早くに帰って来たら、飯も食べさせないからいい……」

遠山の雪肌も解け初めて、この陽穀県の小さい盆地の町にも、いつか春の訪れが萌えかけていた。ひとり萌えるにもやり場のないものは、金蓮の肉体にだけ潜んでいる。

金蓮はその日、桟叉(竹竿に叉をつけた物)を持って、門口へ出ていた。廂の芦簾の片方が風に外れたので掛け直していたのである。――が、冬中の雪に廂の釘も腐ッていたのだろうか、一方を掛けているまに一方がバサーと落ちた。「あっ」と金蓮は、簾を避けてよろめいた。と、後ろに人がいた。通りかかりの往来の者らしい。その者も軽く「ア。あぶない」といって金蓮の体をささえ、そして、相顧みてわけもなくニッと笑いあった。