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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
Read 新・水滸伝 (しん・すいこでん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 684,899 characters · 1374 screens
かたがた、証人になっていただけたら結構千万というだけのもんですよ。どうぞ、お静かに」
「やいっ、王婆っ」
武松は、はったと睨みつけた。あの景陽岡の虎をさえ射竦ませたといわれている眼光である。
「よくも、隣住居をいいことにして、いろんなからくりをしやがったな。兄貴の非業の死も、因はといえば、みんなくそ婆め、うぬの所為だ。見ていろ、泥を吐かせてくれるから」
一転、その巨眼は、金蓮の顫きを、冷ややかに睨めすえて。
「こう。虫も殺さねえ面をしやがって、このすべた阿女の潘金蓮め。よくもおれの兄貴をさんざん小馬鹿にしたあげく、砒霜の毒を盛って殺しゃあがったな」
「ちッ……お離しよ、この気狂いめ! 何さ! 人聞きの悪い」
「笑わすな。毒婦、淫婦、妖婦、どう言っても言い足らねえや。さ、せめては兄貴の霊前で、一切懺悔をしてしまえ」
「馬鹿馬鹿しい、なにを懺悔しろというのさ。よっぽど真ともな兄さんとでも思うのかえ。よく世間様にも聞いてごらんよ。あの薄野呂を亭主に持った女房って者は、どんなだか」
「いったな」
ぐざと、短剣が床に突き刺さった。
武松の足は、とたんに卓を、遠くへ蹴仆していた。