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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 186,659 characters · 372 screens
敵勢は少なくも一万七千から二万近い――と彼は見た。そして、
「この城には?」
と、考えるとき、かれは、当然なものを、決せずにいられない。城中の兵は、七百にたらなかった。弾薬、食糧もかぎりがある。加うるに、友軍の城、七尾も津幡もみな遠く、しかも聯絡をとる道は、途端に、断ち切られている。
孤城、無援。
たのむは、自分以外にない。――ただ、きょうまで、ひとつ城に住み、ひとつ道を励み、ひとつ主人を柱として、不足なく暮して来た人と人との心のむすびが、果たして、この不測なる大変事に、どんな様相と変化を描き出すであろうか。
「妻は、妻であった」
助右衛門は、敵の火矢や弾雨の来る矢倉に立って、ふと、或る幸福に、なぐさめられた。かの女と、初めて契った婚礼の夜に見たときの美しさよりも、この時において、自分と同じ覚悟をもって、たすき、はちまきの、けなげなる姿の方が、――より深く、より美しく良人の眼には見えたのである。
指揮の間に、かれの眸は、時にはふと、その妻の姿をもさがした。
かの女は、大勢の避難民を、危険なる外曲輪から、二の丸の森と空地の一所に移し、召使の女たちを連れて、折々、見舞っていた。