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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 186,659 characters · 372 screens
「兵船をすすめ、治利を救え」
水路――兵船団は赴援にいそいだ。しかし、ふつうの漁船や荷船とちがって、船脚のふかい大船なので、浅瀬をえらぶに暇どっているうち、忽ち、陸地の防柵から銃声がとどろき、
「――寄らば」
と、いう気勢の徳川勢がここにも見える。
陽は落ちて、水辺はくらく、ややともすると、浅瀬へのし上げる危険もあり、時を移しているうちに、小舟に乗った下市場の兵が、あとからあとから落ちのびて来る。
やがてまた、夜空を赤くこがす火が、下市場の方に望まれた。船上の声は、みな弔うように、
「――ああ。落城」
と、つぶやいた。
「もういけまい」
嘉隆はそういって、
「愚だ。これ以上の、まずい戦をやるのは」
かれは、一書をかいて、部下にもたせ、暗夜にまぎれて、小舟を放った。――小舟は、蟹江川をこぎ上り、蟹江城の滝川一益へ、ひそかに、書面を手渡した。
嘉隆の意としては、その書中に、こういう意見をもらしていた。
――機ハ逸セリ。天ハ我ヲ利セズ。愚戦ニ固着シテ、愚ヲ重ネンヨリハ、如カズ、一タビ退イテ、再起ノ日ヲ計ランニハ。
今宵、軽舟ヲ溯江サセテ、密カニ拙意ヲ告グ。モシ貴意ウゴカバ、身ヲ以ツテ、本船ニ投ゼラレヨ。