Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 187,841 characters · 376 screens
人は去って、人気ない毘沙門堂は、風に光る金壁と、しずかな蝉の声だけになった。
「……ことしの夏は?」
信玄は、この国を繞る山々の影を、遠く見まわすような眼をした。
十六歳の海野平の初陣から、彼の想い出ふかい経歴は、ほとんどみな、夏から秋にわたることが多かった。
冬となれば、引籠って、内に力を養っておくしかない山国である。自然、生理的にも、春が来、夏ともなれば、
――さあ、出て戦え。
と、おのずから満身の血は、限られた区域から外へ向って逸り止まないのであった。
それもひとり信玄ばかりでなく、甲斐武士には共通な心理であった。町家や農田の人々まで、勃然と、
――時こそ来れ。
という太陽を夏には感じるのであった。
殊に、信玄自身は。
ことし五十を一つこえて、痛切に或る悔いと、生涯に期する焦躁を抱いていた。
「……余りにも、戦のための戦ばかりやりすぎて来た」
と、いうことである。
「今にして、越後の謙信も、そう覚っておることだろうに」
と、多年の好敵手を考えれば、敵のためにも、同様な苦笑を禁じ得ない。
しかしこの苦笑は、五十一にもなってみると、深刻に胸を蝕う。