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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
Read 新書太閤記 (しんしょたいこうき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 187,841 characters · 376 screens
「ていよく、人質に取った」
と、いう気持しかしなかった。
若江城には、三好義継がいる。義昭も一時そこへ身をよせたが、
「ここにおいであっては、御身辺のほど、何とも、危のうぞんじます。信長は、ああ申しても、いつ心が変って、あなたに殺意を生じるかしれませぬ」
と、強いて不安がらせた。
厄介な敗亡の貴人を、家に置きたくないからである。
義昭は、またあたふたと、紀州方面へ遁走した。そして、熊野の僧や、雑賀の徒を、しきりと煽動して、
「信長を討ちさえすれば、こうしてやる。ああしてやる」
などと、なお将軍の名と権威をふりまわして、いたずらに世人の嘲笑を買ってあるいた。
紀州にも、長くはいず、やがて備前のほうへ渡って、浮田家に居候しているなどとうわさされたが――以後しばらく、ようとして、その消息はたえた。
時代はここに一変した。
室町幕府の抹殺は、密雲にとざされていた天に、突として、青空の肌の一部が、穴のあいたように見えはじめたともいえるものだった。
久しい、実に久しい、それまでの日本のすがたは、どうだったか。
あってもないようなものの存在が、国家の枢要なところに、名だけをもっている時代ほど、怖ろしいものはない。